新しいコミュニケーション戦略の提案・プロローグ
■就学人口減少の中で
教育界は、いま、未曾有の激動期を迎えています。就学人口の減少、画一化教育・偏差値教育の見直し、大学教育の改革などの大きな変化に加え、私学を取り巻く状況は、公立学校における週五日制の完全実施、都立高校の単独選抜制の実施、中高6年間一貫教育への可能性の拡大、といった、学校経営の根本に関わる諸問題が山積しています。
多様化、個性化、国際化の時代を迎え、高齢化社会へと確実に移行しつつある我が国は、あらゆる分野で新しい時代への対応をはかるための変革、改革が迫られており、多くの皆様は、教育界もこの激動の波から逃れることはできないという認識をお持ちのことと存知ます。
とくに私学において経営を脅かす深刻な問題といえば、言うまでもなく就学人口の減少です。東京都を例にとれば、公立小学校・中学校児童・生徒数の合計は、平成14年度で75万78百人を最小に平成21年度で79万05百人、平成22年度で79万20百人とほんのわずかながら増加に転じています(東京都教育委員会HP学校統計より)。しかしながら全国レベルでは昭和55年をピークに現在まで減り続けています。
Link:
平成22年度 教育人口等推計の概要について(確定値)
(東京都公立小学校児童数・公立中学校生徒数)
http://www.kyoiku.metro.tokyo.jp/toukei/kakutei/22kakutei.htm
政府統計の総合窓口 GL08020103
学校基本調査> 年次統計
http://www.e-stat.go.jp/SG1/estat/List.dobid=000001015843&cycode=0
このことからもわかるように、生徒募集の主導権は学校側から生徒側に移りつつあり、学校が生徒を選ぶ時代から、すでに生徒が学校を選ぶ時代に入ってきたといえるでしょう。では、こうした状況に対して、どのような戦略が有効なのでしょうか。
私たちは、これまで各種私立学校の募集活動をお手伝いしてきた経験を基に、すでに市場経済の過酷な環境に晒されている民間企業のPR、販促活動を数多く手がけてきた経験も活かしながら、貴校のこれからの生徒募集活動および広報・PR活動をお手伝いさせていただきたいと存じます。
基本概念
■学校マーケティングの提案
競争の激しい市場経済社会では、経営の基本戦略としてマーケティングの手法が導入されています。この手法は40年以上も前にアメリカから民間企業に導入され、今では企業経営の基盤を支える重要なものとなっています。
マーケティングとは、一言で言えば、「消費者の求める商品を、いかにつくり、売っていくかということであり、その商品を生産者から消費者に導くまでのすべての経営活動である」ということができます。
これを学校経営に置き換えれば、「生徒(または保護者)の求める教育環境を、いかに整え、売っていくかということであり、その教育を学校から生徒(または保護者)に導くまでのすべての活動である」ということができます。
ここで重要なことは、「つくった製品を売るのではなく、売れる商品をつくる」ということ。生産者が作った物はあくまでも製品であって、消費者が求めるものが商品であるということです。現代のマーケティングは、この消費者志向が基本になっているのです。
これに対して学校では、「はじめに教育(学校)ありき」でした。学校が教育システムや理念を定め、これを求めてくる生徒を選抜するだけで経営が成り立っていました。つまり消費者(生徒)志向ではなく、生産者(学校)志向の考え方が受け継がれてきました。
就学人口の減少、教育の多様化などにより競争の激化が進む現代には、もはや、こうした学校志向の考え方は適合しにくくなってきているのです。
これから必要なことは、経営の考え方を根本から変えてみること、すなわち「教育という”商品またはサービス”を、いかに時代や人々のニーズにあったものにつくりあげ、提供していくか」という生徒や保護者の立場で経営戦略を構築することにほかなりません。これが、私たちが提案する「学校マーケティング」の基本概念です。
学校マーケティングとは
1.教育(学校)は商品である
学校マーケティングでは、学校の提供する教育=教育環境を商品としてとらえます。
商品の構成要素 | ||
教育という商品 | 一般の商品 | |
ハード環境 ●施設・設備の充実度 ●敷地・建物 ●交通・通学の利便性 ソフト環境 ●教育理念・歴史・伝統 ●教育内容・カリキュラム ●偏差値・就職実績 ●教育スタッフ(教師の質) |
●性能・機能 ●デザイン・カラー ●材質 ●耐久性 ●使いやすさ ●価格 |
2.受験生およびその予備軍は、消費者である。
学校マーケティングでは、学校の提供する教育=教育環境を商品としてとらえます。
3.学校マーケティングとは
(1) 消費者(生徒)が何を求めているかを知り、 |
(2) それに応える商品(教育環境)をつくり、 |
(3) それを的確に消費者(生徒)に知らせ、 |
(4) 買って(受験・入学して)いただく |
ための、継続した活動であると言うことができます。
企業マーケティングとの比較
■企業マーケティングの手法は学校経営に通用するか
学校マーケティングは、生徒や保護者の立場で経営を考えることであると述べましたが、これは単に学校経営者や教師の意識を変えればよいというものではありません。この考え方を科学的に体系化し、実際の活動に繁栄させることが重要です。では実際のマーケティング手法の概略をご紹介しましょう。
「学校は営利企業ではない、教育は人と人の信頼関係で成り立つのであって、損徳で物事を判断する一般企業とは根本的に次元が異なるはずだ。」と異議を唱える方、疑問を持つ方もおられると思います。もちろんこれは当然の意見といえます。
学校と企業がさまざまな面で異なることは充分認識する必要がありますが、社会や国家に貢献するということ、また国民のニーズ(知的欲求)に応えるという点 では、同じ次元の目的を持っていると言えます。この次元で学校と業態がよく似ている民間企業がいくつかあります。たとえば、学習塾、予備校、英会話教室、 企業研修セミナー、パソコン教室などの教育サービス業です。
これらの業種の中には、設立時点から顧客(生徒)の視点に立ったマーケティング手法を取り入れ、成功している例が数多くあります。学校とこれらの企業の共 通点は、国民のニーズに応えるということであり、「学校は一種の知的サービス業である」ということもできます。こう考えると、マーケティングが理解しやす いのではないでしょうか。
マーケティングのプロセス
一般企業 | |
マーケティング目標の設定(長期目標・短期目標) | |
調査項目 | 具体例 |
市場調査 何が求められているか |
◎社会動向・消費者動向・競合他社動向 |
商品計画 何を作るべきか |
◎新製品開発・旧製品の改良 |
価格政策 いくらで売ったらよいか |
◎適正価格・戦略価格 |
販売戦略 どこでどう売るか |
◎販売経路政策・販売店計画・物流計画 |
販売促進戦略 いかに知らせ、買ってもらうか |
◎コミュニケーション戦略(広告・PR) |
顧客管理 いかに信用を持続するか |
◎アフターケア・顧客データ管理 |
一般企業の手法を学校マーケティングに 置き換えると、次のようになります。 |
学校 | |
マーケティング目標の設定(長期目標・短期目標) | |
調査項目 | 具体例 |
市場調査 何が求められているか |
◎該当エリアの就学人口・就学実体 ◎生徒および父兄の意識・評価、小中学生の意識 ◎他校の募集状況 |
商品計画 何を作るべきか |
◎教育環境(立地・教育内容・設備・スタッフ等) |
価格政策 いくらで売ったらよいか |
◎入学金・授業料 |
販売戦略 どこでどう売るか |
◎生徒募集計画・入学試験実施計画 |
販売促進戦略 いかに知らせ、買ってもらうか |
◎コミュニケーション戦略=広告・PR・学校説明会 |
顧客管理 いかに信用を持続するか |
◎教育実践・保護者との交流 |
先に示したマーケティングのプロセスでもわかるように、学校と企業では、経営の形態が異なるため、一般のマーケティング手法をそのまま学校にあてはめることはできません。
たとえば企業の商品やサービスは具体的ですが、教育はきわめて抽象的です。また、学校は販売経路や販売店といったものがなく、販売活動は広告、宣伝活動とほとんど同じと考えられます。
ここでは、マーケティングの基本的な考え方を導入し、学校経営に則ったマーケティングを考えてみることが重要です。
従来の募集活動との違い
■より積極的な経営へ
従来のやり方は、あらかじめ出来上がっている教育環境のもとで、受験しに来る生徒を選抜するだけで経営が成り立っていました。しかし、生徒数の減少や社会 情勢の変化、学校の二極化などの外的要因によって教育分野にもマーケティングが不可欠になってきたことは前述のとうりです。
今後は、すでにある教育環境を生徒に選ばれるのを待っているのではなく、貴校という商品を生徒が買いたくなる(受験したくなる)ものにつくり変えていく活動が必要となってくるのです。